1. 交通ビッグデータを活用した流動解析手法の開発
スマートシティ構想の一環として,都市内に複数のWi-Fiパケットセンサーを設置することで人的流動のリアルタイム観測を試行しています.収集されたデータを活用し,例えばまちづくりイベントを実施したときの人の流れの変化を検証したり,人の訪問順序などの理解を深めたりすることで,まちの活性化につながる移動のプロデュースを目指しています.
1-b. ETC2.0データの有効活用
ETC2.0は,有料道路の支払いだけではなく,プローブデータ(車両1台1台の走行軌跡データ)収集機器としての活用も期待されており,例えば災害発生後の車両の利用経路や所要時間の検証などに活用されています.本研究では,より広範でのETC2.0データの活用をめざし,道路工事車両に登載した特定プローブデータを用いて道路工事の高度化(IT化)の可能性について検討を加えています.
2. 高速道路の交通マネジメントに関する研究
2-a. 大規模更新工事時の交通マネジメント
今後都市間高速道路においては,大規模な改修が必要となり,長期間における通行止めも実施する必要が生じてきます.このような通行止め実施時には通常以上の深刻な渋滞が発生することが想定されており,事前の入念な対策が必要といえます.そのためには,どのような交通を積極的にコントロールすることができれば適切な交通状況が実現できるのか,検討を加える必要があります.本研究では,ネットワークの一部リンクの閉鎖に対し,最も効率よく交通渋滞発生を緩和できる交通量を求めることを試みています.
2-b.高速道路におけるProactive型交通マネジメント手法の開発
高速道路は,我が国にとって物資や人の移動のための重要な社会基盤施設ですが,現在でも慢性的に交通渋滞が発生したり,交通事故が多発したりするなど十分な機能を実現できていない区間も存在します.また,高度経済成長期に建設された構造物は本格的な更新時期を迎えており,早急な対応が求められます.このような状況に対し,高速道路利用者に自発的に時間調整やう回などの行動変更を行っていただく交通マネジメント手法の開発を目指しています.具体的には,ゲーミフィケーション手法を援用し,ゲーム感覚でミッションを達成することで楽しく行動変容を実現できるようなしくみの構築をめざしています.
3. Multilayer Networkを活用した社会・ネットワークの相互依存性の分析
3-a.Network Topology理論を用いた社会構造変化の理解
本格的な人口減少社会を迎え,特に過疎地域では平常時のサービス効率化のための市町村合併や施設集約などが進んでいます.その結果,人々は日常生活において交通サービスに依存する程度がより大きくなり,ひとたび災害が発生し道路網が被災すると,集落が孤立してしまうなど社会脆弱性を増大させている懸念があります.このような社会状況変化による災害時の社会の持続可能性評価を行うために,ネットワークの形状論(Network Topology理論)とマルチエージェントシミュレーションを組み合わせた方法論の構築を行っています.
3-b.マルチレイヤー相互依存構造を考慮した交通ネットワークの接続性・可制御性解析
近年の気候変動等の影響を受け,災害が多頻度化,激甚化し,あるエリアに存在するインフラが集中的に被災し,地域住民に大きな影響を及ぼしています.また,「道路の耐災害性強化に向けた提言(令和元年7月)」では,隣接する構造物の同時被害や沿道被害による道路への影響など相互依存したインフラ構造物の総合的な管理の必要性が説かれています.
一方,地方部では高齢化・過疎化が進行し,地元の小規模店舗の廃業や都市部あるいは幹線道路沿いへ移転し,日常生活における「交通依存」が加速され,災害時の交通システムの機能低下の影響が増大している.近年のCASE技術を活用した車の高機能化は,地方部の交通依存に対し安全性の向上や送迎者を必要としなくなるなど大きな支えになりえますが,一方で,これらの技術は情報通信および電気エネルギーに強く依存しており,交通システムの情報通信システム,電力供給システムとの相互依存性を高めます.
災害発生時にも社会が深刻な機能不全に陥らないためには,地域が孤立してしまわないように外部との接続性を強固にする必要があります.一方で,新型コロナウィルス感染症拡大により,防疫対策として地域間流動の抑制の必要性が叫ばれています.自然災害発生時には十分な接続性を確保しつつ,一方で感染症対策の観点からは限定された地点で外部との流出入を制御可能な交通ネットワークの構築が必要といえます.この際,他地域から「隔離された地域」においても一定期間通常生活が送ることができるためには,地域内において一定の都市機能が求められますが,特にモビリティ革命が進展し日常生活圏域が広がりすぎれば都市機能を確保可能な圏域が大きくなりすぎ,十分な隔離対策が実施できない可能性もあります.
以上の背景を踏まえ,本研究では,新しいライフスタイルへの転換,モビリティ革命の進展を踏まえ,交通システムの情報通信・電力供給システムとの相互依存性を明らかにした上で,激甚化,多頻度化している自然災害や感染症対策などを念頭に,それらの影響を最小限にとどめるためマルチモードの交通ネットワークの接続性および可制御性を評価するとともに,その改善方向性を検討できる方法論を確立することを目指しています.